「手動」がもたらす物
子供の頃に見たアニメやSFで描かれる21世紀は「全自動の世の中」だった。
超高層ビルが乱立し、透明エアチューブの中を走るエアカーが交通手段で、
宇宙船は容易に衛星都市に行き、ロボットが街中を闊歩し、腕にはTV電話、
家の掃除は無人自動掃除機がやってくれる、ドアも窓も自動で開閉、
21世紀はそんな世界だと描かれていた。
だから子供心に、全自動化こそがすばらしい夢の技術だ、と思っていた。
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で、今は正真正銘21世紀だが子供の頃想像していた未来とは大分違うな、
一見したら前世紀である20世紀と全然代わり映えがしない世の中じゃん。
まあ、誰もがコンピューターでネットを使い、携帯電話を持ち歩き、
写真はデジカメが当たり前、薄型TVも普及して、HDDにTVを録画し、
車にはカーナビがついていて所在地が分かり、ETCで料金は自動支払化、
これはかつて夢見た未来に結構近いから、間違いなく進歩はしている。
無垢な子供の頃はそんな「全自動な未来」が当たり前だと思っていたけど、
割られ削られ叩かれ退色して一部だけは磨かれて偏屈な「大人」になったら
「全自動」に以前ほどメリットを感じなくなってしまった。
何故か?それは「全自動」の行く先が「人に判断をさせない世界」だからだ。
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「全自動」を行う機械を作る人はいろいろ考えて商品を作っているはずだ。
最先端の技術からおばあちゃんの知恵袋的ノウハウまでを集めて徹底的に
検証し、最適な結果が得られるようにチューニングして商品化している。
その商品を買って使う人はその技術とノウハウを買っているとも言える。
でも機能化されているそれを果たして理解して使っているとも言えるか?
多くの人は与えられた機能を何も考えずにそのまま盲信して使うだけだ。
具体的に全自動洗濯機を例に挙げよう。洗濯物を放り込み洗剤を入れて、
スイッチを入れれば洗濯機がその洗濯物の量を計測し最低必要水量を注水、
洗濯槽が最短最適条件で周り、排水、注水してすすぎを実行、排水、脱水し、
完了する。最近はそこから乾燥まで自動でこなしてくれる。
一時期洗濯板を使っていた自分からしたら、これは実に便利な機械だ(笑)
何故便利かと言うと「手動」でやってた事を全部「自動」でやってくれる。
故に自分はこの機械がどういう判断で、どんな動きをしているのか分かる。
そして「全自動」洗濯機が壊れたり、電気が途絶えて使えなくなっても
一度経験しているから「手動」の洗濯板にも戻ろうと思えば戻れる。
今どきの若い世代は「電気洗濯機」が当たり前で育っているだろうから、
「洗濯板で手洗い」のハードな家事労働はとても耐えられないだろう(^^;)
そもそも洗濯板とタライでどうやって洗濯するのか、衣服の材質によって
どう洗い方を変えるか…なんてのは現代人は知らなくていい無駄知識だ。
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もっと分かりやすい例を一つ挙げてみようか、例えば車の変速機構。
今はATが当たり前。実際世の中を走っている車の9割以上がATだろう。
今では多くの人がAT限定免許を取り街中を走る。それも納得出来る。
でもATしか乗れない人は何かでMT車を運転しなければいけなくなっても
運転出来ない。機械が「全自動」でやってる事をやればいいだけだが
その仕組みが分からないとクラッチミートすら出来ないのではないか?
逆にMT乗りはMT車は当然乗れるしAT車も普通に運転する事が可能だ。
それは車の変速機構がどんな働きであり本来人間がやることを
機械が代わってやっている、いう事をちゃんと理解出来るからだ。
人と違う判断で勝手に変速されると違和感を感じたりもするけどね。
MT車であってでも「それ以外は全自動化」された車、例えば○菱の
ランエボとかは本来人間が判断して操作すべき事を機械が勝手に
補正してくれる車だ。だから「誰が乗っても凄く速い車」だけれど、
それしか乗った事が無いドライバーが同じような4WDターボだけども
実に愚直に作り込まれてるスバルのインプレッサや、大馬力FR車、
ライトウェイトFF車に乗って峠を走ったら…危ない目にあうだろうな。
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ちょっと脱線するが、自分は今まで所有した四輪は全てMT車だ。
今のレガシィB4-RSKも5MTだし、アトレーMXターボも5MTだ。
でも実はATは嫌いじゃない。なぜなら「楽しい乗り物」ではなく、
「楽な乗り物」としてはMTよりATの方が圧倒的に優れているから。
これは両方乗って分かった、自分なりに辿り着いた四輪の結論。
乗り物を操る楽しさと難しさは、完成度と安全性の高い四輪よりも
不安定で危険な二輪の方が数段上だ。だから単車乗りな自分としては
中途半端な四輪のそれをわざわざ求めなくていい、なら楽な方がいい。
でも今の生活は四輪に「楽」を求める必要が全く無いからMTでいいのだ。
MTは「楽」ではないが何となく単車に似たフィーリングが得られるので
ATよりもずっと「楽しい」。でも都心や高速の渋滞にハマると疲れるから
そういう場合は二輪に乗って出かけるので上手く住み分けも出来るのだ。
もしB4がMTでなくATだったら、「楽しい」けど「楽ではない」単車には、
日常で全然乗らなくなり、そればかり乗るように日和ってしまうだろう(^^;)
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・・・激しく脱線したが、話を元に戻そう。
このように「全自動」化を果たした技術の進歩によって、本来だったら
伝承されたり習得せねば使えない「技能」や「ノウハウ」が多くの人に
手軽に使えるようになった。その功績は間違いなく大きい。
でもちゃんと習得しなくても使えるようになる、という事は本質を理解
しなくても使えてしまう、という事であり、転じて何も考えなくてもいい
「ブラックボックス盲信主義」化しているとも言える。
実は何よりもこれが一番ヤバイと思うのだ。
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自分は紛いなりに技術者だから技術で語れない迷信じみた物は信用しない。
技術で語るためにはその原理原則、基本動作などの本質を理解する事が
必要であると共に重要だ。その本質を理解して初めて応用を理解出来る。
例えば「活性水素水」とか「トルマリン配合シートで燃費&パワーUP」等、
そういう学術的、技術的に説明(証明)出来ないものは殆ど信用しない。
こういう怪しい商品に限ってなんとなく難しい学術用語をそれらしく並べ
いかにもすばらしい商品!、と吹聴しているが大体は嘘八百なシロモノだ。
こういうモノが出てきて、それに騙されて金を使ってしまう人たちは
恐らく「全自動」に慣れきっていて、根拠無き権威を振り翳されると
その本質を追求したり検証せず、ただ機能だけを求めてフラシーボ効果で
満足してしまうタイプ、良く言えば純朴、悪く言えば愚鈍、だと思うのだ。
自分で情報を集めて判断を下す、という生き物が生き延びるのに不可欠な
行為を放棄して、誰かが言うがままをそのまま信用してしまうからだ。
騙そうとする側からすれば、まさに赤子の手を捻るようなもんだろう。
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間違いないのは「機械は単に人間の働きの代役をしている」って事だ。
船ならばオールで漕ぐ古代のガレー船とディーゼルでスクリューを回す
現代の船舶、速度や積載能力は全然違うけどその本質は変わらない。
エンジンだろうがオールだろうがそれは船を進める動力の違いだけ、
風を読み天候を判断し、浅瀬を回避する制御をするのはどちらも人間。
レーダーやGPS、音波ソナーなどで有る程度自動航行は出来ても、
最後に必要なのは人の判断、完全無人全自動航行は多分無理だろう。
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最新の全自動な機械を使う事が問題だ、とジジイの小言のような事を
言っている訳ではない、せっかくある便利なモノは使わなきゃバカらしい。
でもそれらが無かったら生きていけない、と言う様に束縛されてもダメだ。
どんな便利な機械も道具に過ぎない、それに支配されたり依存したり
仕組みが良く分からないけどなんとなく盲信したりしていたら、
思考能力や判断能力といった脳力、動物としての体力が低下するだけだ。
かく言う偏屈な自分自身でさえ人類が脈々と築き上げてきた機械文明を
全て捨て去ることは、それによるメリットよりデメリットが多い上に、
コストが莫大に嵩むので日常生活で「無理にやる」つもりは全く無い。
実験の結果必要無し、と判断すればガンガン削減するけどね:-p
要は人間がイニシアチブをしっかり取って機械と上手く付き合えばいい。
「全てが全自動」ってのは前述の通り脳や体が退化しそうで芳しくない、
機械が得意な所だけを美味しくツマミ食いする「半自動」がベターだ。
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人間はどんなに注意しても必ずミスをする生き物だから「半自動」で
人間の判断が介在する状態にしておく事はトラブル発生の原因になる。
でも人間はミスをする事で経験を積み、学習し進化する「生物」だ、
機械はミスをしても自分で修正したり改善したり学習したりはしない。
CPUが入っていてそれなりに自己診断する装置でもプログラミングした
以上の仕事はしてくれない。
そもそも失敗は致命的でない軽微な物ならバンバンした方がいいのだ。
その数だけ経験を積み、失敗を学習して初めて「成長」出来るからだ。
前にも書いたけど、痛い想いをして初めて分かる事は数多いから、ね。
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壊れたバイクを押して、いつもなら数分で上る坂道を汗だくで登ると、
ガソリンが燃える事で得られるエネルギーがいかに凄いのか分かるし、
いつもは見過ごしていた脇の草むらに、可憐な花が咲いているのを
発見出来たりもする。これらは「手動」でしか体験できない世界だ。
そう考えると、21世紀になってもSFチックな世の中にならなかったのは
人類が怠けていたからでなく、正しい進化をしているからなのかもね。
例えば全て「全自動化」された未来に人間が全自動尻拭き機を使って
自分の尻拭いすらしなくなって、それで強く擦られて怪我したとかで
メーカーに巨額賠償金を求めてPL訴訟を起こすような情けない世の中は
どんなに便利でもちょっと勘弁して欲しいもんなぁ(苦笑)
…と、言いつつ職場のウォシュ○ットは使ってるけどさ<ばき!
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