手負イノ爆縮戦士、カク戦エリ
ある日、残業で快調に仕事をこなし帰宅する寸前、課長に呼び止められた。
課長:「ino、明日本社で行われる会議に、お前も出てくれ。」
突然ではあるがサラリーマンである以上上長の業務命令には逆らえない。
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翌朝、着慣れぬ背広(≒戦闘服)をひっぱりだし、苦手なネクタイを締めて、
爆縮戦士に変身した。中身はガタガタだが、戦闘服の上からは分からない。
そうさ、こうなった以上、俺は戦〜士♪(by ダンバインOP)
だが普段は私服や作業服で通勤している自分がこんな着慣れないものを
着込んでいるのを近所に知られると少し照れくさいのと、春の陽光が
少し眩しかったので、「謎の中国人変身メガネ」も装着して駅に向かった。
こうやって変装しとけば近所の人に怪しい奴とは思われまい、しめしめ。
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最寄の駅から圧縮される方向へ向けて列車に乗った。住んでいる路線では、
人と人が当たるほど混むことはないが、そこから横浜方向に行く別の私鉄では、
最初はいいが、最後はかなり混んでくる。だが始発駅から終着駅に行くので、
列車を1〜2本やり過ごせば必ず座れる。
そういう姑息な手段生き残るための高等戦術を駆使するのは、サラリーマン
処世術の一つだ。実はこれ以上肋骨で痛い思いをしないために必要以上に
早い時間に家を出ていたのだ。
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…大都会横浜に着いた。横浜駅は郊外に住む自分からすると実に巨大だ。
そこで爆縮臨界点である東京方向に向けJRに乗り換えるのだ。京急でもいいけど。
その方向に走る列車は3本あるが、自分が行く駅に止まるのは東海道本線と
京浜東北線の2本。東海道本線は国内屈指の最高クラスの車内圧力を誇る、
いわば殺人路線だ。それに対し京浜東北線は鈍行なので、乗る車両を選べば
東海道に比べれば車内圧力は低い。
肋骨ヒビ入りの傷病兵である自分が東海道線に乗るのは自殺行為なので
遅い低圧の京浜東北線に乗るつもりだった。なにせ時間はたっぷりあるのだ。
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横浜駅のJR切符売り場についた頃に、携帯が鳴った。・・・課長からだ。
課長:「ino、今どこにいる?横浜あたりだろ?」
ino :「さすがですね、ちょうどそのあたりにいます。」
課長:「悪いが会議の資料合わせするから*時前に着くように来てくれ」
その時間に本社に行くためには、鈍行の京浜東北線では絶対間に合わない。
悲しいかな殺人圧縮列車ならぎりぎり間に合う。課長はそれを見越していた。
今回の怪我も結局私的な自分の責任だ、だから公な仕事で言い訳に使えない。
たとえそれが、自分にとってダメージであると分かっていても。
ino :「…了解です、東海道に乗れば間に合いますので行きます」
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東海道本線のホームにはすでに人が通り抜けられないほどあふれていた。
恐ろしいことに、コレだけの人が、満員で到着した列車に乗り込むのだ。
無論横浜で降りる人もいるからそのまま詰め込まれるわけではないが。
平日の朝の東京近辺の東海道本線は現代社会の『親知らず子知らず』だ。
大袈裟に極論すれば、母親が不用意に小さい子供を背負って乗り込んだら、
その親は自分を守るのが精一杯で背中の子供が車内圧で圧死するのを
守りきれないかもしれない・・・と言うほどに、実に恐ろしい世界だ。
健康な大人ですらそこで肋骨を折ったり、ウォークマンが圧壊した、と
言う話もちらほら聞く。そんな所にすで肋骨に亀裂が入ってる自分が
突入したらどうなる?ミシン目の入ったトイレットペーパーのように
そこからボッキリ行くんじゃないだろうか?ぶぢでは済むまい(-◇-;)。
・・・ああ、どうせ圧死するなら、その前に一度今は「無き」元カミさんに
会いたかったなぁ、などと考えつつホームに入ってくる列車を呆然と眺めた。
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ドアが開き、人が降り、その後気合を入れて乗り込ん、いや、後ろから
一気に車内に押し込まれた。
そこは以前体験したのと同じ予想通りの超高圧空間だった。
あらかじめ胸ポケットから携帯電話、内ポケットから手帳と筆記用具を
出しておいたので、圧搾されていている最中でも胸部の患部には
ダイレクトに物は当たらない。
乗り込んでドアが閉まった直後の車内は瞬間的に圧力が高まるが、
そのうち砂を入れた容器をトントン叩くと上手いこと詰まって減容するように、
車内圧が少し減る。そんな状態でとあるカーブを抜けた時、密着していた
車内の人の界面に若干の隙間が出来た。
そして少し人の配置に変化を生じ、自分の左前方にいた同世代のOLらしき
女性が自分の左脇についた途端に左胸に突然激痛が走った!
よりによってその女性はバッグを胸元で抱えて両手を上げていたのだ。
喩えるならばボクシングのファイティングポーズ、のようなガード体制だ。
その肘が、自分の左胸横に当たっているのだ。痛い痛い痛い(T◇T)!
逃げたくても満員電車の中では身動きは取れず逃げられない。
男女の立場が逆なら間違いなく痴漢行為であるその肘で、列車が揺れる度に
ヒビった患部をピンポイントアタックされ、思わず出そうなうめき声を堪えた。
残念ながら満員電車の車内という仁義無き状況ではその女性に文句は
言えない。それに彼女も彼女なりの理由でそのポーズでこの爆縮装置内で
圧力に必死に耐えている、同じ戦場に立ついわば戦友なのだ。
そもそも今の自分の痛みは彼女のせいではなく、怪我したマヌケな自分が、
乗ればこうなると分かっていてこの空間に飛び込んだ、つまり自己責任だ。
・・・ただ出来れば右腕だけは下ろしてぇ、痛いからさぁ(T◇T)
結局十数分間、胸を肘で触られ(=どつかれ)続けたが、さすがに耐えられず
次の停車駅で人の流れに乗って一旦降りて、再び車内での立ち位置を変えた。
これが本当の「Re-structure」、つまりリストラだぜぃ、と親父ギャグ級の
下らん事を再び乗り込んでくる人々に強制圧縮されながら思ったりしつつ、
さらに高まる圧力に歯を食いしばり必死で耐え続けた。
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こめかみの血管が切れる寸前に某駅に着く事で車内圧が下がり、自分は
かろうじて生き残った。目的の駅でドアから人波に翻弄され排出されて
シャバの空気を吸った時には、深呼吸しただけでぎりぎり痛くなるほどに
肋骨のダメージが増大していた。
ま、ぼっきり折れて、肺に刺さって血へど吐くよりはマシだったぜ、と思い、
セカセカ歩く人の流れに乗って、殆ど来ないのであまり実感のない本社に入る。
小綺麗なオフィスに入ってふと思う。…オレって本当にここの社員なんか(^^;)?
現場で見る他の社員はみんな作業服だし、自分も研究所では作業服なので
社員全員が背広を着てるこういうオフィスが、自分の会社だ、と言う実感が
イマイチ持てないのだ(苦笑)
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コメント
inoさん。
朝から大変おつかれさまでした。
不謹慎にもかなり笑えました。
古館さんも顔負けの実況中継です。
面白い方なんだな~inoさんて。
サングラスにスーツ姿は、
中国人というよりマトリックスですよ。
かなりの怪しさ出てますけど。
投稿: なお | 2005.03.20 10:51
くだらない雑文にもコメントありがとう、なおさん(^^)
リアルinoは見てのとおり、どこにでもいそうな地味ぃなおっさんです
男としては余計にべらべら喋る方でしょう。女性には言い負かされますが(^^;)
もう歳も歳ですから高倉健のように「男は黙って…」でありたいんですが、
それを目指してる、というと周りからは「な~に冗談言ってんのよ」(苦笑)
蛇足ですが自分が自分のことを「私は」「俺は」と言わず(書かず)
「自分は」というのは高倉健の昔の映画からきてます(実話)
でも実物は「コメディ映画の竹中直人風」かなぁ?<ばき
投稿: ino | 2005.03.21 07:42