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2006.08.05

爆縮戦隊、小動物と戯る

それはニ週間前のことだった。例の現場出張の件で一本の電話が
入ったのだ。なんでも今回の仕事には、とある資格が必要なので
急きょそれを受験して欲しい、そのために必要な講習を来週には
必ず受けてね♪、というモノだった。

ちょっと待てや!、タイトなスケジュールを必死にやりくりして、
夏休みすら放棄し頑張ってるのに、突然そんな予定を突っ込まれ
たって、対応出来っこないじゃんかよ(T◇T)

だが、冷静になりその仕事の工程を逆算すると、確かに今回この
タイミングしかチャンスが無いのだ。ちっくしょう・・・いいよ、
やってやろうじゃんかよ(^^;)

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話さえ決まれば「動作クロック」が研究所の数倍はあるそっちの
連中の仕事は早い、なんと翌日には受講申込み完了の連絡が入り、
翌々日には必要な受講票やテキスト類が宅配便で届いた。もしや
とっくの昔に申込みは終わっていたんじゃないのか?(苦笑)

数日後、またも数ヶ月ぶりとなる耐圧防護服、じゃなかった背広
を着込んだ。…これさえ装着すれば、社会の底辺で生きる地蟲の
ような自分も、企業戦士、爆縮戦隊サラリーマンに変身するのだ!

てくてく歩いて駅まで出向いて、そこから地獄の人体圧搾装置、
爆縮点に向かって進行する通勤電車に乗り込んで、一路講習会の
会場を目指した。その目的地に到達するまでには実に電車を3本
乗り継がねばならない。

その電車が少しずつ中心に向かう度に、電車を乗り換える度に、
まるでラヴェルの「ボレロ」のように、自分の周りにはじわじわ
人が少しずつ、だが確実に増えて、どんどん密度が面白いように
高まってゆく。…うう、憂鬱だ(TT)

三本目に乗り換える電車は、日本国内でも有数の最高レベル車内
圧力をマークする、まさに「サラリーマン圧搾マシーン」と呼ぶ
のにふさわしい有名な路線だ。自分も過去にこの路線では何度も
痛い目にあっている。

だが自分がまたそれに乗るのは、そして誰もかれもがそれに乗り
たがるのにはちゃんと理由があって、そっち方面のビジネス街に
通勤する為にはこれがもっとも早い列車なのだ。その隣を走る、
同じ区間を走る他の列車に乗ると最低でも10分は到着が遅れる。
高々10分、されど10分、この僅かな時間を稼ぐためだけに、
その列車でサラリーマンは加圧されるのだ。

イナカモノの自分も、目も眩むような大都会に設けられた会場に
設定された時間までに到着するためにはそこそこ早く家を出ねば
ならない。だから「殺人列車」だと判っていても、それに乗って
稼げるその10分がとても貴重だったりするのだ。

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沢山の人が押し合いヘシ合いしているそのホームの上で技術立国
日本が世界に誇る殺人マシーンが到着するのを、死刑執行を待つ
死刑囚のような心境で脂汗を流しながら身動きせず待っていた。
・・・今思えば、恐らくこのタイミングだったんだと思う。

シルバーの車体に緑とオレンジのラインが入ってる、その列車が
ホームに滑り込んできて、そして地獄の扉が開いた。するとそこ
から内部で圧縮されていた人々が迸り落ち…て、こないぞ(^^;;)

今日は何らかの事情で空いていたらしい。夏休みだから学生君が
居ないのが原因なのかもしれない。お陰で乗り込んだその車内は
拍子抜けするほど人の密度が少なかった。とはいえ、その駅から
乗り込んだ乗客も沢山いたので、結局肩が回せない普通の路線の
ラッシュアワーくらいの人口密度はあった。

何にせよ、命が身体から無理矢理搾り出されちゃうほどではない。
助かった…どうせ次の駅では沢山の人が流れ込んでくるのだろう
けど今の所はラクラクだ(^^)

そうなると余裕が出てきて、視線を車内に回して、自分が掴まる
吊り革のあたりにあった醜悪なる週刊誌の吊り広告に気分を悪く
したり、窓の外に流れてゆく景色をぼーっと眺めたりしていた。
その後で、何げなく足元に視線を落とした。そこには想定外の
光景があった

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自分の靴の上に、大きい茶色の、とても立派なスズメガが一匹
掴まってて、そこで羽根をフルフルと小刻みに震わせていたのだ。

スズメガは三角翼の戦闘機のようなシャープな体形、大きく黒い
円らな瞳が印象的なとても可愛い蛾だ(^^)。
だが実はあまりに種類が多すぎ、自分も遭遇した奴の正式名が
判断出来ない。まあこの中のどれか、と思ってくれぃ。

陽光の下を煌びやかに舞う美しさの化身のような蝶に対して常に
日陰者のイメージが付きまとう「蛾」はイメージは良くないけど、
実は蝶と比べても何ら引けを取らない美しい虫だ。

全てが人間の害となるチャドクガのような奴は論外だが、例えば
うっとりするような美しさと優雅さを併せ持つオオミズオアオや
誰もが蛾だとは思わないオオスカシバは、自分のお気に入りの蛾
だけど、他にも並みの蝶を蹴散らす程に美しくて可愛い蛾は沢山
いるのさ(^◇^)/

しかし、そんな蛾が、何でサラリーマンと一緒になって朝の通勤
電車に乗ってるんだ?…お前、いつのまにオレの足に(^^;)?
                  ↑
 そう、あの駅でこの列車を待っていた時だ、それしかない。

自分は公私共に認める生き物大好き♪中年男だし、相当珍しいで
あろう、そのシチュエーションをせっかくだからデジカメで記録
しておこうかな?、と思ったのだが、通勤電車の人込みの真中で
足元に向けてフラッシュを焚いたらOLのスカートの下を盗撮する
不届き者だと勘違いされて、鉄道警察に突き出されかねないので
断念。よって今回、画像は無しだ(^^;)<ばき!

しかし、冷静に考えるとコイツはものすごく運が悪くて、そして
運が良いな。野に生きる小生物が、まず生きて出られないような
この環境にこいつが飛び込んでしまったのは、この上ない不幸で
あるだろう。だが、その中に数多く立ち並ぶ足の中で取り付いた
その足が偶然とはいえ、生き物大好き♪蛾も大好き♪、な自分で
あったのだから。

普通の人だったら、気持ち悪がって振り払われて、踏み潰されて
しまったに違いない。「不幸中の幸い」だったな(^^ゞ<ばき

だけどココがコイツがいるべき場所ではなくて、冷酷無比な満員
電車の中である事実は変わらない、つまり未だに絶体絶命である
事に変わりはないのだ。もし自分の足から離れたらコイツの命は
この列車内で終わってしまう。

そう思うと、足元で丸く黒い瞳で自分を見上げて小刻みに羽根を
フルフルしているこいつが、まるで自分に助けを求めて縋ってる
ように見えて仕方が無かった。事実この列車に乗っている人間で
コイツの命運を心配して、しかもコイツを助けられる人間は自分
以外いないだろう…

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一見した所、触覚が小さいので、多分メスだろう、よって以後は
コイツを「彼女」と記す。

その場でしゃがめれば彼女を手に取り、軽く握った手の平の中に
保護して降りる駅まで連れて行く事は可能だろう。でも空いてる
とはいえここは満員の通勤電車の中だ、そんなことは出来ない。

とりあえず、まず彼女が足の上から落ちないようにそっとそっと、
足を動かして、他人の靴先で踏まれたり潰されたりしないように
微妙に体制を変えた。そして、足を持ち上げて微妙に動かす事で
靴の甲の上につかまっていた、彼女が飛び降りないように注意し
つつ、左足のインサイド側に誘導することに成功した(^^)

足元をずっと見つめて必死になって無言で何かをやってる自分を
周りのサラリーマンはいぶかしげに見ていた。何せ、足元の蛾の
存在など知る由もないし、そんな虫ケラの事など気にも止めまい。

だが自分は両足の間で彼女を保護しながら、このあとどうやれば
良いのかを考えた。このまま目的地の駅まで行ってもいいのだが、
降りる時にはどうしても自分も歩かねばならないから、その時に
彼女が落ちる可能性がある。そういう状態になったら救い上げる
事は不可能だ。

と、すると、降りる前にどうにかして足元の彼女を保護しなけれ
ばならない。うーん、どうしようか、と迷っていたら、人体圧搾
マシーンは次の駅に着いた。この駅では若干の人が降り、多数の
人が乗ってくる。…そうなるともう身動きが取れなくなる。

この時、意を決した。このタイミングでどうにかしよう、と。

マシーンが停止し、ドアが開いた。周りで数人の人間が降車して、
一瞬空間が出来た。そのタイミングを突いてすばやくしゃがんで
彼女をそっと右手で包み、曲げた指先の上に掴まらせた。そして
そのまま軽く握りこんで、彼女を手中に収めた。

自分の近くにいた若いOLは、一連の自分の行動に気付いたようで
まるで自分が素手で汚物を拾い上げたかのような、蔑んだ視線で
自分を睨んだ。

…あのなぁ、ねーちゃんよ、この手の中にいるのはアンタと同じ、
命あるモノなんだぞ。アンタが自分をどう思おうが勝手だけどな、
もし今アンタが死にかけたらオレに助けられるのならばアンタを
助けるよ。それと同じように、オレは「彼女」を救えたんだから
助けた。ただそれだけなんだぞ。それが判らないのか?

…無理か、アンタにはは理解できんよな、悪かった(^^)

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彼女は最初こそ自分の手の中で最初羽根をパタパタ震わせてたが、
諦めたのか、それとも落ち着いたのか、すぐに大人しくなった。

無事保護出来たものの、「ボレロ」的にクライマックスに近付き
つつある車内圧力はその駅からやっぱり脂汗を流すくらい上昇し
本来なら嵐に抗う船舶の錨となりうるつり革に掴まる事が出来ず
奔流に流されるまま圧迫され放題となった、うう苦しいぃ(-◇-;)

だが、手の平の中からたまに伝わる命あるものの感触が、どんな
シチュエーションよりも人と人とが触れ合っているのに無機質で
他人行儀な通勤電車の不毛な雰囲気を和らげてくれた。

電車はいつもの環状路線への乗り継ぎ駅に到達、いつものように
車内圧力が低下した。本来だと降りる駅じゃないけど自分もその
奔流に乗って車外に流れ出た。当然彼女を解き放つためだ。

すぐ近くにあった植え込みの所まで行き、そこの根元にそっと
彼女を放った。ここでも彼女は長く生きられないかもしれない。
でも、自分がしてやれるのはここまでだ。後は自分で生きろ(^^)

おっと、乗り遅れる!あわてて列車に戻った。

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どっと出た汗をぬぐおうとハンカチを取り出したら、右手には
彼女の燐粉がちょっとだけ付いて残っていた。ハンカチで拭けば
すぐ落ちるこれ、さっきのねーちゃんからみたらウス汚いモノ、
なんだろうな。でも同じ汚れならば、そんなねーちゃんと仮に
触れ合って移る人工的な顔料のファンデーションや濃い口紅、
臭い香水よりも、こっちの方がマシだな(^^)<ばき

 

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コメント

いい話ですね。

子どもの頃は一緒に遊んでもらったはずなのに
大人になると虫が苦手になる人もいるようです。
あ、元から苦手な方もいらっしゃりますよね。

7月の末の晩に、アスファルトの道路を歩く蝉の幼虫を見つけたので
近くの木の幹に離して別れたのですが、翌朝、その木に彼が旅立った抜け殻を発見できました。
あれは嬉しかったなぁ

投稿: じゃんご | 2012.08.26 07:04

じゃんごさん:

こんな古いネタにコメントして頂きありがとうございます(^^)/

そう、昔はバッタもセミもカナブンも、みんながワクワクする空き地や雑木林の仲間たちでした。
トンボも、オケラも、蝶も、蛾も、タイコウチも、芋虫や毛虫やダンゴ虫さえも、みんなみんな、
日々の仲間でした。不快害虫呼ばわりされるムカデやゲジゲジも、ダークヒーローでしたね(笑)

自分は今でも同じ気持ちです(^^)

庭に植えたにんじんの葉にキアゲハの幼虫が付くとそれが蛹になって、蝶になるまでが楽しみです。
セミの幼虫、ウチの庭にも出てきます♪。夕方から地上に出て、ゆっくり上って、早朝に真っ白な
セミとなって、抜け殻だけを残して飛んでゆきます。

狭い庭ですが、そこにはカナヘビやコウガイビルといった動物も現れます。この星は人間だけの
星じゃない、いろいろな生き物が連鎖していて成り立ってるんだな、としみじみ感じます(^◇^)

投稿: ino | 2012.08.27 22:36

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