旅2012・14日目 帰還
台風19号の影響で通常より若干海がうねっているようで、少し大きい
揺れを感じながらフェリーのベッドで目が覚めた。
展望ラウンジに食材を持って上がり、メロンパンとその他を齧る。
しばらくするとラウンジに昨夜の女性ライダーもやってきたので
これも縁、と朝飯も一緒に食す。昨夜から色々と話をしているが、
なんでも一人でふらっと北海道に来たのだという。相当な通かと
思ったらバイクに乗り始めてさほどたってないそうだ。
そして自分と同様に旅の途中で転倒して軽い怪我をして、バイクは
それなりに壊れたのだとか。でも周囲の人の助けで応急処置を施し
この旅を終えたのだという。
怪我が軽く済んだのが不幸中の幸い、というよりもラッキーですよ。
バイクに乗ってると良くある事なんです、バイク乗りなら必ず一度や
二度やn度、そうやって色々な(痛い)経験を積んで今に至ります。
これから楽しい事が沢山あります!大丈夫ですよ~(^^)、と励ます。
北海道をバイクに乗って一人で旅する(それをやろうと思って実行
出来てしまう)女性は今の世の中には相当貴重なので、ぜひとも
これにくじけないでこれからもバイクでフラリと旅してみて欲しい。
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メシ後は単独行動。フロに入ってキズパワーバッドの下で化膿した
傷の手当して、船内をうろついて甲板に上がって青い空と青い海の
美しいコントラストを楽しむ。
その間にある雲が視界の端から端まで伸びている。これをいくら
写真に撮っても、このパノラマ立体スケール感が全く伝わらない。
ちょうど福島第二の沖あたりだったのでそれを眺め、共同火力の
あたりも海から眺める。海から見えるようなストラクチャーは
発電所ばっかりだから目立つな。
今日の航行は前述の通り、うねりが大きいので、あとはベッドで
ゴロゴロして過ごす。大洗に着岸したら、暑い本州の気温の中で
高速道路をひた走る、ポンコツTWと手負いの自分にとってきつい
この旅のファイナル・ラストランが待っている。
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定刻通りに、船は大洗港に接岸した。下船の案内が流れる。
よっしゃ、行くかぁ!、一晩世話になったベッド周りを片付けて、
手荷物を持って、エレベーターホールで下船票を船員に手渡して
車両甲板Fに降りる。バイクを固縛しているベルトをとっとと外し、
荷造りをして、船室に持ってゆく必要が無いのでバイクに括って
置いておいたメッシュジャケットと、ヒットエアと、ヘルメット、
グローブを装着、これで船旅を陽気に楽しむinoからTW旅ライダー
inoへと変身完了!
さあ、上陸だ!、出てゆく順番を少し待って、船員の指示に従い
自分に出走の合図が出た。船倉からタラップに向けて船内を走り
光り輝く外に出た。
うわぁ!、何だ、スゲェ暑いぞ!、北海道の気温と船上の気温、
それと陸の温度が全然違う!、暑い暑い!
でも、この暑さの中を走らないと帰れない。とっとと我が家に
帰ろうぜTW(^^)
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高速に乗るまでの一般道は北海道と違い普通車やトラックが多く
走っていて、旅の速度60km/Hを維持しているとガンガン抜かれる。
ヒヤヒヤしながらそれをやり過ごし、ふと周囲を見回すと、空が
とても青くて、高くて、北海道の空と殆ど変わらない事に気付く。
そして周囲の景色は当然北海道のそれとは違うが、でも綺麗だな、
と感じた。
そうこうしているうちに、ついに高速道路の入り口が見えてきた。
さあTWよ、俺らだけの灼熱の真夏の耐久レース、走りぬくべよ!
(あれ?、今年は8耐あったのかな?)
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高速道路に乗り、旅のトップスピードである80km/Hまでジワジワ
車速を上げてゆく。相当な距離を走って偏磨耗したFタイヤから、
断末魔のような走行ノイズが上がる。
あともうチョイなんだ!もう少しだけ頑張れ!Fタイヤ!
気温は高く、股間に感じるエンジン熱もこの旅で最高の温度だ。
今回の旅に出る前に200cc空冷OHC2バルブエンジンには過剰と
言っても過言ではない10w-60の100%化学合成油に交換したけど、
この時点で3600kmも無交換で走り続けている。
だから必要以上には無理に回さない。旅の相棒であるTWは消耗品
じゃないからね。周囲に迷惑がかからないよう後続車にどんどん
抜いてもらって、ロートルジジィならぬTWを労わりながら頑固な
までに80km/Hを上限として走り続ける。
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途中で同じフェリーに乗っていたバイクに何台も抜かれてゆく。
北海道のノリで手を上げて挨拶するも、一台もそれに応えては
くれない。また、どのバイクにもホクレンフラッグが見えない。
追い抜き様に荷物の間に見える白い棒が、それを収納した状態で
走っている事を示していた。うーん、何で仕舞っちゃうんだろ?
自分は家に帰り着くまでは、都内だろうと何だろうと旅人として
ホクレンフラッグを掲げて走るけどな。
広い高速道路だと、この速度でも周囲を見渡す余裕がある。
目に入る風景は、さっき一般道で感じたように、とても美しい。
北海道でなくても、日本のあちこちには当たり前のように美しい
風景が存在する。五年前の旅の最後に感じたのと同じ気持ちで
TWと自分は、ひたすら暑く長い高速道路を走り続けた。
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守屋のSAまで来た。燃料タンクの残量からすると無給油のまま
自宅まで帰れるはずなのだが、高速走行で燃費も悪化している
だろうし、空冷でバテ気味のTWを冷やして、暑さで水分を失って
いるだろう自分もちょっと一服しようか、と軽い気持ちで入った。
駐輪スペースにTWを止めてメットを脱いだ。…ん?ガソリン臭い。
なんだ?、と思ってキャブのあたりを覗き込んだら、ガソリンが
オーバーフローしてダラダラ流れ、熱くなったクランクケースの
上でジュゥジュウ!、と沸騰していた!
今までノートラブルだったのに何で最後の最後で出るかな(^^;)
ま、どうせいつものフロートのひっかかりだろうな、とタンク
バッグから三脚を取り出し、キャブレターを側面を何度も何度も
ガンガン!、と叩きまくった。フロートのひっかかりならば大体
これで止まるのだ。
でも、何度も何度も、左右から叩いても、ガソリンは漏れ続ける。
これはフロートバルブだな。とすると、キャブを開けないと対応
出来ないじゃんか。
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…なぁTW、お前、もしかしてオレを試しているのか?、オレが
この状況をどう対処するのか、お前ニヤニヤしてるだろ(^^;)
お前と連れ添ってもう20年だぞ?。こんな事はオレらにとっちゃ
オチャノコサイサイ、そうだろ?、…ま、ちょっと休んでろよ、
こんなのはすぐに直してやっからさ(^^)b
荷物にくくりつけたお茶をシリンダーヘッドにぶっ掛ける。
空冷フィンだけでなく、さっきガソリンが沸騰していたクランク
ケースの上でも、水が鉄板焼きのように蒸発してゆく。こんなに
熱いとちょっとキャブは弄れない。TWにぶっかけたお茶を自分も
飲みながら、少しの間TWを冷やした。
…さあ、やるべ。サイドカバーを外して、車載工具を手術前の
ブラックジャックよろしく駐輪場の地面に並べてキャブレターの
分解作業に取り掛かった。
しかし、旅の最後にSAの駐輪場でキャブレターをバラすハメに
なるとはな。ま、これも旅の良い思い出になるよな、とっとと
やろう。
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車載工具だけで、シートやタンクも外さずキャブレターを取外す。
詳細は省くが、こんな感じでキャブは取れて、フロート室を開け、
フロートと、それに連動して動く小さいバルブを取り外した。
よくよく見るとそのバルブの先端部に小さい糸状の物が付いてた。
それを取り除き、フロートを組み立てて、その状態で燃料ホース
から息を吹き込んで、手でフロートを動かしバルブが正常に作動
する事を確認してから慎重にキャブを組み立てて物の姿に戻した。
外したホース類も全て元通りにして、キャブの神様に祈りながら
燃料コックをonにする。フロート室がガソリンで満たされる間の
数秒が、とてもとても長く感じた。頼むよ(-人-;)
…ガソリンは、もう漏れてこなかった。よし!、直ったぞTW!
ちょっと時間を食った(そして無駄にガソリンをタレ流した)が
これでまた走れるぜ。
エンジンがあっさりと掛かり、スロットルにきっちり呼応して
TWが今までと同じように吼える事を確認して、広げた店を
撤収し、再出発の準備を整えた。
ここから走り出すまでに実は約30分ほどまた一つエピソードが
生まれたのだが長くなるから止めておく(^^;)、話を先に進める。
走り出し、守谷SAのガソリンスタンドで給油。漏洩と分解作業の
ロス分でさぞ入るだろ、と思ったら、96km走って2.3L。燃費は
41.7km/Lだった。高速走行してるのにいいデータだ。って事は
もし漏洩騒動が無ければもっと良かったって事か(^^;)
さあ!さあ走ろうTW!もっともっと!俺ら一緒に走ろうぜ!
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常磐道も三郷に近づくと周囲は都会の景色になってゆく。
半地下道のあたりではもう夕方の渋滞が始まりかけていて、その
流れに乗る。それが皮肉な事にちょうど旅の速度である60km/H。
北海道を走るのと同じなのでエンジンからの暴力的な輻射熱を
股間に感じること無く、TWは淡々と心地よく走ってくれる。
料金所を抜けて首都高に入ると、さらに車が増えて一般道を走る
状態と殆ど変わらない。BMWやレクサスが不機嫌そうな顔でその
車列の中でふてくされてる。でも低速車であるウチらにはそっちの
方が都合がいい(^^)
そうこうしているうちに、目の前にスカイツリーが見え始めた。
これは!!5年前は見なかった光景だな。キャブレターの修理で
時間を食ったため、日照角がほぼ真横から入るので都会の街に
浮かぶスカイツリーがとても美しく輝いて見えた。
また道路の左側に見えるゴミゴミしただけの風景だと思っていた
東京の下町の町並みも、日差しを浴びて光輝いて見えた。ほぼ
100%人工物なのに、それがまるで北海道の自然美と同じように
美しく見える。
北海道だけじゃなく、日本はまだまだ広いし、美しいんだな。
東京でもこんな景色が毎日展開しているんだ。当たり前の事に
少し感動しながら、横目でスカイツリーを見ながら湾岸に向け
走り続けた。
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湾岸線に乗り、そのまま横浜を目指す。ただ自宅に帰るだけなら
横浜に行くのはえらく遠回りなのだが、自分の中で五年前の旅と
今回の旅を合わせた、長い長い旅のゴールとして設定した横浜の
ベイブリッジを通過するためだけに横浜を目指す。
それでこの旅を〆るのさ(^^)
羽田空港のあたりで日は完全に沈み、徐々に暗くなっていった。
気が付くと路面が少し濡れていた。どうやら夕立が一降りした
らしい。キャブ修理のおかげでそれに会わずにすんだようだ(^^)
人間万事塞翁が馬、悪い出来事のように思えても結果良い方向に
進んでいる事もあるって事だ。まさに旅の最後にふさわしいな。
鶴見のつばさ橋を越え、旅のゴール地点としたベイブリッジが
見えてきた。ようやくここまで帰ってきたなあ。
まずは一服しよう。橋を渡る前にある大黒PAに一旦入って、
北海道の泥化粧とホクレンフラッグを掲げたTWの記念撮影。
気持ちを落ち着かせて、再びTWに跨る。行こう!、渡ろう!
あの橋を!。ループしているレーンをくるくる回りながら登り
ベイブリッジの手前で本線に合流する。行け!、加速しろTW!
登り坂となる橋の入り口を、延々と息の長い加速をしながら
速度警告灯が灯ることなくついにベイブリッジを渡りきった。
…ゴール!!ここまで、そして今まで本当にお疲れ!TW!
さあ他のバイクたちがオレらを待ってる我が家に帰ろう(^^)
薄暗くなった横浜の町は都会を象徴するような電飾煌びやかな
夜景に彩られていた。その中をうねるように走る高架の分岐を
自宅方面に向かう方向に曲がるべくヒラリとTWをバンクさせた。
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自分の住む町までようやく帰ってきた。最寄駅の近所の陸橋の
てっぺんあたりで信号に引っかかって止まると、いつもならば
殆ど人がいないそこの歩道に、何十人もの人が立っていた。
何かと思っていると、下っ腹に響く重低音が逆方向から鳴った。
振り向くと夜空に光の輪が何個も開いていた。おお!花火だ!
旅の最後の最後に、このシチュエーションは出来すぎだな(^^;)
ここが自分の地元だと言うことをあまり考えずに、まるで前日
までと全く同じように北海道を旅する気分で、TWに跨ったまま
メットのシールドを上げて一番近くにいた一家に声をかけた。
ino :「今日は花火ですか?」
旦那:「ええそうです、ここからならよく見えるので。」
ino :「昨日まで北海道に居たので見れると思わなかったです」
お婆:「そんな遠い所までそのバイクで行ってきたんかい?」
自宅まであと数百mの距離で、旅先と変わらないその土地に
住む人たちと、旅人としての会話を短い信号待ちの間に交わす。
信号が青に変わる直前にその中の人がこう言ったので、それに
全力で答えて、ガッツポーズで答えてその場を去った。
奥様:「それはいい夏休みを過ごしましたね!、楽しかった?」
ino :「はい!、楽しかったです!、ありがとうございます!」
わずか1分間程の間だったけど、自宅から目と鼻の先のこんな
場所でも立派に旅人としてのコミュニケーションが出来たよ(^^)
旅って場所じゃない。その気持ちがあるか無いかなんだね。
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家の最寄のガソリンスタンドでこの旅で最後の給油。
120km走って2.7L。燃費は44.4km/L。高速道路メインだったのに
こんなに走ってくれるとは思わなかった。首都高の渋滞が北海道と
同じ巡航速度となって伸びたんだろうな。カブに乗っているという
バイトの学生がその数値に驚いていたが、長年乗っている自分が
一番驚いたよ(^^;)
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自宅に到着したのは20時を超えていた。あたりはすっかり暗く
ご近所に迷惑をかけないよう、そ~っと自宅の庭にTWを入れた。
出張でしょっちゅう長い間空ける家なのに、この旅を終えて
帰ってきた時に開けた玄関は、いつもとは違う感じがした。
5年前の旅でここに帰り着いた時には、実はここで当事の彼女が
ご飯を作って自分を待っていてくれた。誰かが自分を待っていて
くれる家に帰ってこれる事がとても嬉しかった。
今の自分は、誰からも必要とはされなくなってしまったために
出張にしろ、旅にしろ、家で自分の帰りを待つ人は誰もいない。
あるのは庭先で育つサツマイモと、軒下や駐車場に停め置いた
物言わぬ乗り物たちくらい…ただいま(^^;)
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そんな薄暗い自宅に入り、電気をつけて二週間前に置いてきた
自分の日常を見渡す。
旅を始めた時に最初に感じた浦島太郎感覚を、今度は自宅で
感じた。旅する自分と、ここで生活する自分、どっちが現実だ?
部屋の窓を開け、暗い庭を照らす明かりに薄暗く映る旅装束の
TWを見下ろす。日常の場に戻ったはずなのに今すぐどこにでも
旅立てる姿をしたTWが暗い庭で無言で自分を見上げていた。
そんなモンモンとした葛藤の中で、ふと閃いた。
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旅先では夜になるとその場に集った旅人によるその日だけの
コミュニケーションの場が出来る。その和は朝になると崩れて、
そして散開した旅人は各々がまたどこかの場所に夜になると
集まって、またその場だけのコミュニティを作り楽しむ。
その連鎖を繰り返しながら、時間切れとなり去ってゆく者や、
新たにやってきてその連鎖に加わるもの、そうやって旅人達は
何度も旅したり、新陳代謝を繰り返しながら、今夜も北海道の、
いや、世界中のあちこちでそんな夜や生活をきっと過ごしてる。
自分がこの二週間そうやってきたように。
…これは、旅だけの現象じゃなくて、人々の人生そのものの
縮図、というより人間社会というものが、全てそういう動きで
成り立っているんだろうな。
例えば子供は学校という場に集い、共に学び、卒業する事で
散開して、新たな場にあちこちから人が集い、また散開して、
また集う。それを繰り返している。その中ではもっと細かく
短い単位でその仕組みは激しく繰り返されている。
家族だってそうだ。男と女がひとつのユニットを作り、子を成し、
家族というコロニーを作り、そこで生まれた子供が家庭から
巣立ったり、家庭が崩壊したりすると散開し、また新しい
場所で他者と同じような仕組みでそれを繰り返している。
つまり自分と元カミさんや、この前の彼女も、そうやって
集う事で短い間ではあったが一緒にいられた。でも時が
流れ、そのコロニーは結合力を無くして解散するに至った。
あ、また集うことは無いから、散開ではなく解散ね。
つまりは縁があって集い一緒に暮らし、結局縁が無く別れ、
可能な人はそこからまた別の縁を探す。これはまさに「旅」。
この十年チョイ、色々と考えてきたけど、結局は人間って、
男女が別れて他人になることって、たったそれだけの事
なんだろうな(^^;)<ばき
この無人の家に留まり続ける事も一つの生き方ではある。
人生を旅に例えるなら独りで山の中でキャンプしてる状態だ。
一人で黙々と焚火を弄って過ごす夜も、決して悪くはない。
でも、そこから例えば旅人が集うライダーハウスに向かえば
そこには一期一会の縁により色々な人たちが集い、その人の
数だけ人の輪が広がり、相乗効果による化学反応的な縁が
広がってゆく。行動を起こさないと、それは生まれない。
旅が面白いのはそういう事もあるからなんだよな。そういった
人の付き合いが時に面倒になるけど、「旅は人生の縮図」
というのが自分の元々の持論だった。
ということは、旅も、つまりこれからの人生も、その方法で
どんどん面白くして行けるって事なんだろうな。(^◇^)b
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TWから荷物を下ろして部屋に入れる。ここは北海道のライダー
ハウスで言えば中の下の下くらいか、と考える自分にちょっと
苦笑。今夜はTWを庭に出したままにして、星の下で眠らせよう。
これにて、この旅の全工程が(無事ではなかったけど)終了。
この二週間、お前は本当に良く走ったよなぁTW、ありがとう。
今夜はゆっくりおやすみ~
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本日の走行距離:210km
以下エピローグに続く。
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