オスはメスに食われる宿命
現場労働であちこちを飛び回っていると、そういう
働き方をずっとしている職人さんや監督が集まる。
休憩時にそういった様々な年齢層で色々な人生を
歩んできた人たちと色々話しをしていると、どうも
長期現場労働をしている男は離婚暦を持つ人間が
かなり多くいるらしい。無作為に100人集めたら
その中に30人以上いる、といっても過言じゃない
ようだ。
自分のように結婚してから短い時間で別れるような
パターンも多々聞くのだが、一番多いのは、長く
一人で出稼ぎして、家に帰れなくてもせっせと稼ぎ
家族に送金を続け、子供が自立し、自分が年老い
現場仕事がキツくなってきた頃に自宅に戻ろうと
すると、その時点で妻に全てを奪われてバッサリ
切り捨てられる、一番救われないパターンだった。
家族のために過酷な現場を飛び回り、帰りたくても
帰れず、せっせと送金を続けても、自宅に居場所が
無くなり、子供が自立したり、稼げなくなったらば
もう用無し、帰ってくるな!とばかりの扱いを受けて
離婚し、独りとなった初老級の人が今の現場でも
ざっと両手で数え切れないくらいいるらしい(T_T)
そう考えると、最初はそうとは思いもしなかったが
今となって考えればいつかは必ず別れる運命に
あった自分は、心の傷がまだ浅いうちに(それでも
死ぬほど苦しかったが)離婚して独りに出戻って
…実は相当に幸せだったのかもな、と思わされた。
人生をささげ尽くした家族から不要物呼ばわりされ
あげく無一文で追い出されるよりは、まだ幸せな
暮らしを自分はしているから。当然だけど、大切な
家族と共に生きて共に成長する暮らしが一番の
幸せではある事は理解しているけどね。
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そんな事を思いつつ、現場での仕事を終えて
事務所に歩いて戻る道すがら、ふと自分の視界に、
繋がったまま空を滑空する、緑色が目立つギン
ヤンマのカップルが見えた。
おお、お前らは仲がいいな、せめてお前らはオレより
幸せになりな~、と思ったら、その二匹が交尾体制
から分離して、空中で絡み、もつれ合って地面に
落っこちてきた。自分のほんの1mほど先に、だ。
おいおい、お前らいくらなんでもそりゃ激し過ぎだろ
そんなに熱くマグワらなくてもいいんじゃないの?
…と、思ったら、どうも様子がおかしいのだ。
脚を畳んで無抵抗な状態のオス(緑と水色の
ツートンカラーの方)の上にメス(緑一色の方)が
しがみついていて、路面にひっくり返ったまま
二匹でモゾモゾしてる。そのうち、オスが数秒
おきの周期的に羽を震わせて、路面に当たり、
バババッ!…バババッ!…バババッ!っと
不思議な羽音を立て始めた。
…何だか、様子がおかしい。
その状態で絡む二匹を手にとってみても、その
状態のままだ。オスは周期的に羽を震わせ、
背後に抱きついたメスが、オスのうなじにどうも
噛み付いているように見える。何だこれ?
そのまま二匹を路面に置いて様子を見ていたら
オスのうなじに噛み付いているように見えていた
メスが、なんとそのままオスの頭を噛み切った!
そして、そのままオスの胴体をムシャムシャと
食い始めたではないか!
ちょっと前まで、仲睦まじく一緒に空を飛んでた
連れ合いを、メスよ、お前は食っちまうのかよ!
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交尾後にオスを食ってしまうのはカマキリとか
クモくらいなのかと思っていたけど、そっか
トンボもそうなのか…、でもギンヤンマをwikiで
調べても、そんな生態は書いてないんだけどな。
でも交尾後の産卵はオスメスが連結してか、
または単独で(つまり産卵出来るメスだけで)
という記載があるから、つまり単独のメスは
交尾したオスをがっつり食って、その後で
産卵してる、って事なんだろうな(-_-;)
感情論を抑えて考えれば、交尾して自分の
遺伝子をメスに託したオスは生物的にもう
この世に生まれてきた役割を終えているから、
これ以上生きるのも他の命を食すのも無駄だ。
ならば、他の生き物に食われるくらいならば
自分の子のために交尾後のメスに食われて
子のための栄養源になるのは時間や手間が
節約出来て、確かに極めて合理的ではある。
一番上の画像でオスが脚を小さく畳んで
背後から獰猛に襲い掛かるメスに完全に
無抵抗な状態になって覚悟を決めている
ように見えるのはそういう事だったのかな、
と思う。
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そんなメスや卵のために自分の命を捧げる
オスのギンヤンマの姿が、そのちょっと前に
雑談して聞いた、危険な職場で命をかけ働き
せっせと家族に仕送りして、その金で家を
建てて、教育費を負担して、やっと家族と
一緒に暮らせるようになったとたんにあっさり
捨てられる、現場の労働者とちょっとだけど
ダブって見えた(涙)
まぁ現場労働者に限らず、基本的にトンボや
カマキリと同じように、人間もオスはメスに
食われる宿命にある、という事なんだろうな…
その際に自ら喜んで食われているか、辛い
思いをしながら苦しんで食われるかの違いで
結局は食われるサダメから逃れられない。
それは肉体そのものを食われるのではなく
稼いだ金だったり、人生のリソースだったり、
時間だったり。そういったモノをメスや子に
託して自身の命を次に襷渡しして終えるのは
生物のオスとして正しい姿なのかもしれない。
自分は残念ながらその清く正しい生き方から
ドロップアウトしてしまった。だから自分自身を
誰かに与えるような尊い事をする事もなく、
自分が発生する(=独りで生きるには過剰な)
全てのリソースを自身にのみ費やし生きてる。
これが幸せなのか、不幸せなのかは、まだ
判らない。離婚直後はそれがこの上ない
不幸だと思って嘆いたが、十年もたった今は
…もしかして不幸になっていたかもしれないが
そうはならずに済んだ、つまりもしかすると
今は幸せなんじゃないか?、という良くない
疑念を抱きはじめた(苦笑)
でももう少し生きたら、もう少し違った考えに
なるかもしれない。人生はまだまだ続くのだ。
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